退職金制度の構築・見直し
運用利回りの低下による積立不足・適格退職年金の廃止(税制優遇の期限 平成25年3月)・確定拠出年金の登場等の制度変更だけでなく、退職金に対する従業員の意識や退職金の経理処理等、退職金を巡る環境は大きく変化しています。
しかし、依然として、昔のままの退職金制度が放置されている企業が沢山あります。是非一度、見直してください。また、従業員のやる気を引き出す退職金制度の構築も、ご提案しています。
1.退職金の性格
★ 退職金制度の廃止や減額を考える場合には、事業主が一方的には行えませんので、注意が必要です。また、不利益変更の有無にかかわらず、従業員は、不利益変更ではないかとの危惧を持っているので、十分に理解できるように説明する機会を持つことが重要です。
- 1 退職金の意味
- 退職金の性格を巡る判例・学説は多くあります。
- 1)賃金後払説(月例給与の一部を退職時にまとめて支給する)
- 2)功労報奨説(従業員の功績に対する報奨)
- 3)生活保障説(退職後の生活の安定を図るために支給する)
- 4)労務管理説(採用・定着・長期勤続促進のために)
判例としては、1)2)を中軸に総合的に事情を考慮して示されていますが、最近の退職金制度の変化(→前払退職金、確定拠出年金等)は、今後の判例変更の可能性もあります。
- 2 退職金の法律的性格
- ・退職金は法律上必ず支払わなくてはならないものではありません。しかし、就業規則・退職金規程等により、支給条件が明確なときは、「賃金」(労働基準法24条適用)とみなされ、支払義務が生じます。また、規定がなくとも、支払ってきたという慣行があれば、請求権は生じます。
- ・退職金請求権は、退職という事実により、初めて発生するもので、不確定期限付の条件付債権(既往労働分は確定債権。でも請求権は留保されている)と言われるものです。
- ・不利益変更は、基本的に従業員の同意が必要であり、法的解決の選択肢の増加と従業員の権利意識の変化から、退職金を巡る個別労働紛争は増加しています。
2.中小企業における退職金制度の解決しなければならない課題
★ 大前提の問題として、支払いを継続していける退職金制度なのかの検討を行わなければなりません。又、会社にとっても、従業員にとっても、長期的なスパンでの経営や生活設計を展望する、折角の機会なのですから、会社の中長期方針の理解を求めたり、人事・賃金制度のあり方を論議したりすることも意義あることと思います。
- 1 給与連動型の退職金制度の見直し
- ・給与連動型である場合、定期昇給、ベースアップと給与の改定に連動して退職金は増加(→多くの場合、勤続による逓増する乗率が設定されているために、給与の増加率以上のペースで、退職金は増えます)していきます。その結果、人件費の負担の増大に対する危機意識が必要なのですが、十分に「数値」として把握されていない実態があります。
- ・対策としては、下記のような給与非連動型の制度の検討も選択肢のひとつです。
1) ポイント制
2) 別テーブル方式
3) 定額制方式
- 2 積立不足はないか
- ・全体に、積立不足への認識が甘い傾向、あるいは全く理解していないことが多々あります。
- ・積立不足を検証するときは、二つの積立不足を点検しなければなりません。
1) 社外積立(適格退職年金制度)の枠内で生じている積立不足
2) 自社退職金規程に基づく支給額と社外積立制度との間での積立不足
- 3 自社の退職金規程を十分に理解していないことが多くあります。
- 社外積立分は、自社退職金規程で算定する支給額の内払いか、加算扱いかの確認が必要です。意外と、規程と運用との間に乖離がある場合があります。
3.事例紹介…適格退職年金移換(適格退職年金→中退共+生保)
※ A社(土木コンサルタント業)従業員35名の事例
A社は、平成25年3月で廃止が決まっている適格退職年金で社外積立をしてきました。制度導入当初は問題なく展開していたのですが、ご多分に漏れず、運用利回りの低下により、年々、積立不足が増えていき、昨今、金利上昇に転じたとは言え、予定利率5.5%の運用利回りの時代に設計された制度ですから、放置しておくと、まだまだ積立不足が増えていきます。そこで、決定的な段階になる前に、制度廃止まで、時間はあるものの、早期に制度転換することにした事例です。
勤続年数に応じた基本退職金を中小企業退職金共済制度で支払い、定年・業績評価部分を加算退職金として生命保険の解約返戻金を利用して、新しい制度は設計しました。したがって、適格退職年金は中退共へ移換しました。
※上記の『適格退職年金からの移行事例』の詳細をご希望の方は、メールでお申込下さい。
4.退職金の積立制度
★ 退職金積立制度は多様ですが、中小企業が現実的に選択しうる制度は限られています。長期の展望にたった制度設計を行うわけですから、検討には十分な時間を掛ける必要があります。
- 1 確定給付年金
- 適格退職年金と同様、将来の積立不足のリスクをある程度持っています。また、制度維持費用が高く、従業員300人以上向きの選択です。
- 2 確定拠出年金
- 積立不足の心配がなく、制度スタート時と較べると使いやすい制度(→中小企業には、「総合型」という簡易な商品が普及している)にはなりましたが、自己責任による運用という点が良くも悪くも、この制度の特徴です。また、60歳まで受給できない制度のため、忌避される面もあるようです。転職先へも持っていけることになっているのですが、転職先に確定拠出年金制度がないために、放置されている金額が133億円もあるそうです。
(※ H銀行の総合型の場合の導入費用 従業員30名→初期費用27,600円+毎年185,000円)
- 3 中小企業退職金共済
非常にシンプルな制度で、事業所は、月々の掛け金さえ支払えば、制度維持のための費用の負担もなく、退職金制度の運営のこまごましたことを考えなくてもよい制度です。また、適格退職年金の受け皿としては、一番多くの事業所が選択しています。特に、小規模事業所は100%と言ってよいでしょう。ただ、退職事由による減額が困難等の問題点もあります。
その他にも生命保険の利用等もありますが、いずれの制度も、一長一短があります。制度選択は、単に、どの制度で運用するかという問題ではなく、最重要な問題は、老後の生活資金という問題と共に、長いスパンの従業員の職業生活の実績・成果を、退職金の支給額に、どのように反映させるかというところにあります。したがって、会社側が一方的に見直しの作業を進めるのではなく、検討過程で随時、従業員の意見も聴く機会を持つことも重要です。ましてや、不利益変更を押し付けるような対応は、個別労働紛争の発生をまねきます。
☆ 当事務所では、退職金制度の現状分析(制度的に問題はないか、支払準備は十分かを併せて診断)及び将来分析を無料で行いますので、現在の退職金制度の問題点を棚卸ししてみてください。

